妖怪サークル




「ああ、そういえば」
 狭い教室に五、六人。それがいつもの彼らの居場所であるが、なかなかに暑苦しい。なんせ九割が成人前後の男性である。 そんな中のひとり、火乃前慶が思い出したように古臭い匂いを漂わす蔵書から顔をあげた。 誰ともなく「どうした?」という声が聞こえ慶は声の続きを紡いだ。
「いえ、まあ、近所のスーパーで牛肉安売りだったなあというのを思い出しまして」
「お前さんは主婦か」
 おそらく教室内にいる誰もが知っているであろう、黒縁の伊達眼鏡をかけたこの部屋の主、八田黒天はカカカと笑う。 隣に座ったその人を横目で見てわざとらしい溜息をついてやる。
「主婦のように生活しなければならないのは誰のせいです」
「なんや俺のせいk「おーれー!」
「ああたしかにそうですね部外者は帰っていただけませんか火乃前芽吹くん」
 当事者の会話を完全に無視してもう片側の隣に座った少年がガタッと音を立てて立ちあがる。 慶の従弟にあたる火乃前芽吹だ。本来は高校生でこの大学にいてはならないはずなのだが……
「別にええやなぁい、うちめっくん面白くて好きやけど?」
「せやなあ、それにそれ言うてしまったら、機吉あたりどう説明するん?」
 のほほんとした女声は夜野伽、慶よりも若いハズがどこか妙に威厳のある男声は鬼塚酒呑のものだ。 彼らはこの騒がしい……いわゆるKYという類である芽吹がここにいるのを良しとしてしまっているようだ。 これはまずい傾向である、と慶は眉間に皺を寄せた。
「ほんで牛の肉がどないしたん?」
「え? ああ、……牛肉が安売りとか珍しいんで、 ここにいる方々も呼んで焼き肉かすき焼きでもしようかと思いまして……」
「焼き肉!!」
「すき焼き!!」
 その目を獣のそれと変えた酒呑とツヅラが身を乗り出す。あー、ええなあ肉。と黒天も横で笑う。
「俺下準備手伝いますよー!」
 ツヅラは金色に見える瞳をさらにキラキラと輝かせて、 見えない尻尾を左右に勢いよく振りながら大きな拳を握って見せた。
「え、ええ……ああ……ありがとうございます……」
「なあー酒ー、酒はー? あるんやろ? なぁあるんやろ? 無いとか言わせへんで? え? おい」
 酒呑はツヅラとはまた違う意味で瞳をギラギラさせて慶にせまる。 いつのまにか体ごと机に乗っているが、今それを注意なんてしたら間違いなく半殺し以上の仕打ちを受けるだろうと 本能的に慶は理解していた。表情筋がひくつく。自分でわかる。
「こ、こちらでは生憎用意できませんけど……お好きに持ってきてはいかがでしょう?  ――あ! し、白石さんも、是非、呼んでください……」
「えっ? 白石も呼んでええの? なんやわかっとるやーん、太っ腹やんなー! 慶!」
 瞬時に太陽のような笑顔に変わるあたりが彼の恐ろしくもかわいらしいところである……と思いたい。 ……恐れすぎだろうか?
「……そんなに呼んで大丈夫なん?」
 隣から聞こえた声に心の中で汗をかいて、降りかえる。
「……あー……っと……割り勘、なら……肉は一応、安いですし……」
「言っとくけど、俺ら容赦なく食うで?」
「……自分で言いだしてなんですが、今とても不安、です……」




\(^q^)/<なにこれ