愛しくて愛しくて、触れられるものなら抱きしめて愛でて愛でて絶対に放さないで灰になるまで一緒にいたいと思う。 そう思うと結局あなたが死んでしまう終焉しか見えないから、 私からあなたに触れることはきっとこれからは、これからも、無いのだ。 あなたは優しいから私に触れる。熱いでしょうに熱くて溶けてしまいましょうに。 けれどあなたは優しいから、私を放さないでいてくれる。 放すまいと持ち続けるとそれは腐るものですよと言ったら苦笑いを返された。つくづく愛しく思った。 優しい、あなたが好きだ。 言えばあなたは一瞬だけ目を見開いてそしてまた元に戻る。人のようだと思う。 「なんや……いきなり」 「そのままの意味ですが」 「どうして欲しいん」 「何も」 居心地が悪そうにあなたはその場に座り直した。廃屋の床がぎしりと軋む。 もう一度、あなたは私に問い掛ける。どうかしたのか、と。私が睦言を始めることがそれほど不可解か。 私も意味などわからないというのに。 「思ったことを、申したまで」 言って、しばらく返事が聞こえなかったので座ったまま瞼を落とす。 雑念の一切を断ち切る。黙想を始めて、死んだように時が過ぎた。 廃屋の床がぎしりと軋む。二の体積に対して一の質量を持つ物体ふたつに、湿っ気た床はさぞ驚いたことであろう。 「……っ! 燃えてしまう……」 「この前、雨降ったから広がらんて」 「違う、あなたが、あなたの腕が」 押し倒されて世界が転倒した。天井のかわりにはあなたの顔が間近に見えるけれど、この時ばかりは嬉しくない。 ああ、ああ、だってその位置はその意味はあなたを死に追いやるのだというのに! 火が今にもあなたを包むのだというのに! 「嫌だっ……! 触ってはなりませぬ。触れたら触れたら、あなたが……!」 「触る、し。放さんよ」 苦しげだ。苦しみを堪える声を私は知っている。知っている。知っているからこそ、抵抗を一層強めた。 「……放されよ、こくてん、どの……!」 火傷に爛れた肌を見て泣きたくなった。体は正直に大粒を生成する。 涙で炎が消えるならいくらでも泣くのに、この腐った水は炎に紛れて一生を終えるのだ。 身勝手で身勝手で、まるで私のようだと思った。 「お前さんも優しいな」 「え」 大粒を生んでは殺す私に見当違いを投げかける。 炎は、なるほど本当に広がらずにむしろ湿った床が背中へ鎮火を促すほどであった。 床に気をとられた私にあなたはまたやさしく触れて、そうして振り向けば 重なるそれの意味に気づいたときには、背中から消える炎の変わりに目一杯の熱が顔に集まるのだ。 「放さんよ」 優しいやさしい、あなたは言う。 愛しくて愛しくて、触れられるものなら抱きしめて愛でて愛でて絶対に放さないで灰になるまで一緒にいたいと思う。 それが結局、どちらかの破滅を形象取っているならきっと私の方が先に昇華するのだろう。 そうであったなら、と屍は大粒を生成する。 はじかしい 091009 |